アンのレイヤーケーキ
『赤毛のアン』21章で、アンはアラン牧師夫妻を招いてのお茶会でレイヤーケーキを焼きます。
アンがレイヤーケーキにバニラと間違えて塗り薬を入れてしまい、
お茶会が大失敗に終わってしまうという
『赤毛のアン』の代表的な場面です。
小学5年生で初めてアンを読んだ時に
一番心惹かれたのは、レイヤーケーキと「いちご水」でおなじみの、アンのお茶会のエピソードでした。
アンのお茶会はどちらも失敗に終わるけど、
家に友人を招いて、ちょっとおすまししてお茶とお菓子でもてなすという、この大人の交流がとても素敵に見えたのです。
それも、完璧でなく、失敗に終わるのも、なんだか楽しげです。
小学5年生の私は、『アン』のように手作りの料理とお菓子で友人をもてなしたくなり、子供なりに実践しました。
結婚してからは、紅茶教室で本格的に学び、英国式のおもてなしを実践しようとしたりしました。
その時にふと疑問に思ったのです。
優秀な主婦であるモンゴメリなら、お茶会で失敗なんて恥ずかしかった筈。
なぜアンに出てくるお茶会は、2回とも失敗なのだろう?そこには、何か意味があるのではないだろうか?
もしかして、モンゴメリは、アンにお茶会を大失敗させて、女性は家にいるもの、というヴィクトリア二ズム的考えを批判したかったのではないか?と。
『快読「赤毛のアン」』では、レイヤーケーキに塗り薬を入れたのは、その当時、孤児が世話になっている里親に毒薬を入れた食事を食べさせた事件があり、孤児というと薬物を混入させるという偏見が持たれていたことに由来すると書かれています。
しかし、それとは別として、ヴィクトリア時代に日常的に行われていた「お茶のおもてなし」を楽しい失敗談にすることで、モンゴメリは女性を家に縛り付けるヴィクトリア二ズムをユーモアたっぷりに皮肉ったのではないかと思うのです。